会計士のデザインノート

ヒトとカネの交差点

節税策に報告義務!? ~企業、税理士等の対応と政府の思惑

 

 
こんにちわ。
 
昨日、朝刊を読んでいて驚きました。
 

www.nikkei.com

 
「これは、、、(ドキッ)」
 
と思われた経営者や経理の方、税理士の方、節税コンサルの方、節税商品を売り物にしている方は少なくないでしょう。そして、
 
「ところで、節税策って具体的にはなに?どこまでが対象になるの?」
 
と思われたかもしれません。
 
実際、どういった取引が報告義務となるのか、それによる実務の影響はどうなるのかを私なりに考えてみました(以下、個人的な見解、推測に過ぎませんので、実際の法改正の内容を保証するものではありません。念のため。)
 
 

対象となる「節税策」とは

まだまだ先の話で具体的には未定です。
記事によれば「1年間で億円単位の損失を意図的に作り出すような節税策が報告の対象になりそうだ」とのことです。
 
会社規模にもよりますが、中小企業では年間億単位の損失がでるような節税対策を行ってる会社はそこまで多くはないでしょうね。中小企業で一億円以上の損失がでそうな取引は、下記くらいでしょうか。(経常的な取引は除くと)
 
  • 組織再編やM&Aを使った節税
  • 保険や航空機リースなど節税商品取引
  • 役員退職に関係する取引
 
あくまでも、純粋に一億円以上の損失がでそうな取引をあげてみているだけです。これらは、今回の制度の報告対象となるかはわかりません。念のため。
 
実際、「億円単位の損失を意図的に」ということですけど、意図的にって話になると、通常の購買取引とかも含まれるのでしょうか。これはないと思いますが、「意図的に」の意味は法人税法132条の2の包括否認規定「不当に」に近いレベル感なのでしょうか?そうだとするとそれを報告することって、現状の自己申告と変わらないような気がするのは私だけでしょうか、、、
 
なお、他国の事例も記事では紹介されています。米国、英国では金額基準を定めて、「~以上の損失がでる取引」等に報告義務を課しているようです。
 
 

会社・税理士等の事務負担は増える

会社にとっても税理士等にとっても、当然、報告のための情報を集め、報告書類とまとめることとなりますので、人手がかかります。特に大企業ともなれば、特に大変です。
 
まず取引前の検討段階から「節税策にあたるかどうか」の明確かつ具体的な判断しなければならなくなります。判断のための判断基準を、検討プロセスの整備が必要となります。この検討プロセスの整備だけで人手が必要となり、爆死します。いい落とし所になるかは、今後の政府の詰めに期待するしかありません。
 
 

税理士等にとって追徴リスクが上がるだけか

この点、税理士等にとっては、一見、税務署等からの指摘が増え追徴のリスクが高まる、という可能性があります。なぜなら、節税策というグレーな部分も多い行動が報告され、それをもとに税務署が税務調査の対象の参考とするためです。実際にはどういうプロセスになるかはこちら側からはわかりませんが、、、
 
ただ、それだけではなく、税理士等にとっては新たなビジネスとなる可能性もあります。「節税策報告書の作成業務」や上記の「検討プロセスの整備助言」などが考えられます。また、「セカンドオピニオン」業務はいまでさえ比較的使われているようですが、これも増えるでしょう。報告の際に節税にあたるかどうかの判断をセカンドオピニオンとして仰ぐのです。小規模な取引ではあまりビジネスになる可能性は低いですが、大企業などは取引量・額ともに多いことがあるので、必要となってくる部分はあるでしょう。
 
しかしながら、税理士やコンサルにとって新たなビジネスになるということは、「節税策の報告をすることが節税」という同語反復になりかねないということでもあります。ということは、そもそもこの報告制度は本当に必要かということを考えてしまいます。イメージとしては、絆創膏(既存の税法)の上に絆創膏(今回の報告制度)を貼るようなものだと感じます。
 
 

徴収する側(国税や税務署等)の目的は何か

税務調査の対象をどう決めているか不明ですが、マイナンバー制度とあいまって、徴収網を張り巡らせたい、ということだと勝手に思ってます。徴収できるのに徴収していない状態をなくし、確実に徴収していく。
税務署の顧客名簿というか債権管理表や与信管理みたいなイメージでしょうか?というよりは、マーケティングデータかなと思います。潜在的な債権はどこに眠っているか?それは節税策を多くやっている納税者であろうという前提であれば、たしかにこの報告制度は有用かもしれません。
 
しかしながら、申告さえしない人もいるというのに、前述のとおり事務負担が増えるであろうことからすると、適切に報告してくれるのか?という気もします。
また、税務署等徴税する側では、マンパワーの不足もあるでしょうから、やはり、少ないマンパワーで大きく徴収できるような会社を狙うのが経済的には合理的です(課税の公平性もあるので、こればかりではいけないと思いますが)。
 
ということは、内部統制や会社の仕組みがしっかりしている上場会社や大企業に対するけん制なのかもしれません。世界的にも、「大企業の租税回避は許すまじ!」という流れとこれは整合するでしょう。
 
ですので、この世界的な金余り状態と相まって
 
  • 「(金余り状態の)大企業の租税回避を抑制し、あわよくば追徴を狙っていく」
 
というのが目的の制度なのかなと勝手に考えています。
 
 

まとめ

以上からすると
 
  • 大企業は対応が必要で税務署に狙われるリスクは上がる(かも)
  • 中小企業はそこまで不安にならずともよい(積極的な節税策を除く)
 
ということだと勝手に考えています。
制度が本決まりではないですし、詳細な詰めもこれからということで、これからの動向に注目が集まりますね。
(以上の内容は、個人的な見解、推測に過ぎませんので、実際の法改正の内容を保証するものではありません。念のため。)
 
 
それでは。今日も一日おもしろく。
( -ω- )b