会計士のデザインノート

ヒトとカネの交差点

非流動性ディスカウントは合理的か ~最高裁判決:非上場会社同士の合併における反対株主の価格決定申立て

 

 
こんにちわ、tomです。
 
昨日夜、日経でこんな報道が流れてきました。(本日の日経朝刊にもでてました)

www.nikkei.com

 
要約すると
  • 非上場会社同士の合併で、
  • 反対株主の株式買取請求が行われ、買取価格を争っていたところ
  • 収益還元法では「非流動性ディスカウント」が認められない、という最高裁判決がでた。
といった内容です。
 
この「非流動性ディスカウント」は、M&A実務界では、交渉においてよく議論となる点かとおもいます。最高裁判決が出たので、実務にも影響が及ぶと思いますので、類似案件では留意が必要です。(類似案件でなくても、交渉上これをカードとして切ってくる可能性大ですが)
 
 
具体的には、下記の通り。
 
高裁までの判決(第一審、第二審)
結論:非流動性ディスカウントを認める。(公正な買取価格は80円/株とする。)
理由:要するに、非上場株式は換価が困難であるため、これを株式の価値に反映すべきである。
原審は,次のとおり,収益還元法を用いて株式の買取価格を決定する場合であっても流動性ディスカウントを行うことができると判断して,抗告人が有していた株式の買取価格を1株につき80円と定めるべきものとした。
吸収合併に反対して会社からの退出を選択した株主には,吸収合併がされなかったとした場合と経済的に同等の状況を確保すべきところ,A社の株式の換価は困難であり,このことは株式の経済的価値自体に影響を与えているというべきであるから,株式の換価の困難性を考慮することが裁判所の合理的な裁量を超えるものということはできない。抗告人は収益還元法を採用する限りは非流動性ディスカウントを行うことはできないと主張するが,抗告人の享受していた財産的地位は換価の困難性を反映したものというべきであり,上記主張は理由がない。
最高裁判決文より一部抜粋。下線は拙ブログ著者)
 
 
最高裁の判決(今回)
結論:非流動性ディスカウントを認めない。(公正な買取価格は106円/株とする。)
理由:収益還元法には、市場と比較するという要素はないため、市場と比較してさらにディスカウントすることは合理的ではない。
流動性ディスカウントは,非上場会社の株式には市場性がなく,上場株式に比べて流動性が低いことを理由として減価をするものであるところ,収益還元法は,当該会社において将来期待される純利益を一定の資本還元率で還元することにより株式の現在の価格を算定するものであって,同評価手法には,類似会社比準法等とは異なり,市場における取引価格との比較という要素は含まれていない。吸収合併等に反対する株主に公正な価格での株式買取請求権が付与された趣旨が,吸収合併等という会社組織の基礎に本質的変更をもたらす行為を株主総会の多数決により可能とする反面,それに反対する株主に会社からの退出の機会を与えるとともに,退出を選択した株主には企業価値を適切に分配するものであることをも念頭に置くと,収益還元法によって算定された株式の価格について,同評価手法に要素として含まれていない市場における取引価格との比較により更に減価を行うことは,相当でないというべきである。
したがって,非上場会社において会社法785条1項に基づく株式買取請求がされ,裁判所が収益還元法を用いて株式の買取価格を決定する場合に,流動性ディスカウントを行うことはできないと解するのが相当である。
最高裁判決文より一部抜粋。下線は拙ブログ著者)
 
今後、商事法務とか法務専門誌ではいろいろと議論がなされるところではありますが、個人的な見解を。
 
私が感じたイメージでは、
 
  • 高裁まで:株式価値算定上、理論的には考えられる方法。(だが、定量的にこれを何%ディスカウントするには難しい。本件では25%ディスカウントしている)
  • 最高裁:非常に形式的。非上場会社であるため、相続・贈与や同族会社や親族内の取引でよく使われる「財産評価基本通達」上の議論をしている。
収益還元法は「市場における取引価格との比較という要素は含まれていない」と最高裁は述べているが、本当にそうなのか?という点で疑問が残ります。
 
 
それでは、また。( -ω- )ノシ
tom