会計士のデザインノート

ヒトとカネの交差点

大塚家具の議決権争いからみるM&A実務 ~②親族への私募債発行

 

  

こんにちわ。

  

今回は、前回に引き続き、今話題の大塚家具の議決権争いに関して、MBOどうなの?って記事がありましたので、気になる論点を書いていきたいと思います。

 

toyokeizai.net

 

オーナーに社債を発行して、そのオーナーから株式取得

今回は、同記事のこの部分。 

ききょう企画は勝久氏を引受人として、2008年に期間5年の社債15億円を発行し、この社債が勝久氏からの株式取得原資になっている。

大塚家具、久美子氏のMBOがありえないワケ | 企業戦略 | 東洋経済オンライン | 新世代リーダーのためのビジネスサイト

 

なぜ社債なんて発行してるのか?オーナーなんだから株式出資が普通じゃないの?

しかも、その社債の調達資金で、そのオーナーから株式を取得するってどういうこと?

ということについて税務上の観点から私の個人的見解(予想)を書いていきます。(M&A実務と題していますが、どちらかというと事業承継に近い論点です。まあ広義のM&Aということで)

下記の説明につき、実際の実行にあたっては、必ず税理士にご確認ください。会社や個人の状況によって課税関係は異なります。また、以下の記載は、理解に資するため、税制上の正確な表現ではなく簡潔な表現で記載しています。

 

おそらく、親族等にだけの少人数に発行する少人数私募債。

 株式のまま保有し配当でインカムゲインを得ることよりも税務上は「おいしい」ので使われている会社もあります。

 

大塚さんのケースでいえば、こんなかんじ

 

勝久氏個人からすると、「株式+配当」なのか「社債+利息」なのか、という違いがでてきます。実態としては、資産管理会社もオーナーである勝久氏とその親族が支配しているでしょうから、支配の実態=経済的価値の実態は大きく変わりません。負債なのか株主資本なのかの違いがあるだけで、勝久氏個人とその親族の経済持分は変わらないでしょう。

 

私募債発行の税務上の取り扱い

では、「株式+配当」よりも「社債+利息」にはどのような取り扱いとなるのか?というと、税務上は大きく3つあります。

 

  • 社債権者:20.315%の源泉分離課税のみ(配当は総合所得で累進税率最大55%)
  • ②発行会社:社債利息の損金算入が可能(配当は損金算入できない)
  • ③株主(後継者):相続・贈与の際の株価が引き下げられ、相続税・贈与税が減少する可能性がある。

 

①はまさに勝久氏個人が、「株式+配当」→「社債+利息」とすることによって、税務上はメリットが生じる可能性があるということ。つまり、投資額が同一であっても、資産管理会社の私募債を利用して、課税額を抑えることが可能ということ。とくにインカムゲインにかかる税率が違いますから、ほぼ毎年毎年の勝久氏の収入への課税への影響は大きいと思います。(もちろん、勝久氏から大塚の株式を買い取るときに勝久氏に譲渡益課税が生じているので、そこはシミュレーションによる比較が必要かと思います)

②は資産管理会社で、特に持ち株比率が低い株式から配当を受ける場合にはうれしいメリットですね。益金不算入とならない部分があれば、そこと相殺でき、課税が減少します。

 

資産管理会社をとおすかどうかで相続税法上の株価評価が異なる

③は同族会社というか、オーナー系ならではですが、株価が右肩上がりの場合であれば、非常に大きい。たとえば、勝久氏が亡くなり相続が発生した場合、それぞれのケースでは、下記が相続財産の金額となると考えられます(株と社債以外は無視)。そう、上場株式の時価評価差額の税効果分だけ、異なってきます。

 

  • 「株式+配当」のケースでは、上場会社株式の時価
  • 社債+利子」のケースでは、上場会社株式の時価ー税効果分
    =資産管理会社の株価(=上場会社株式の時価ー負債(社債)の額ー税効果分)+個人保有の社債の金額。

 

どういうことかというと、資産管理会社という非上場会社を挟むことで、相続時の株価評価方式が変わります。上場会社である大塚家具の株式を直接持ってる場合、当然「市場株価ベース」で株価評価されます。

 

他方、非上場会社となると、「純資産価額方式」となります(資産管理会社で株式特定保有会社に該当する場合)。純資産価額方式とは、いわゆる時価純資産で株価評価する方法で、

 

  • 資産の相続税評価額(時価)ー負債の相続税評価額(時価)ー時価評価差額の税効果分

 

の算式となります。資産管理会社が上場株式しか持っていないとすると、この税効果分は、上場株式の(相続時の時価ー取得時の簿価)×42%となります。ですので、時価が右肩あがりであれば、直接株式を保有しているケースより、資産管理会社を通したほうが、時価簿価差額の42%分だけ相続財産の金額が減少する、ということになります。

 

なお、個人が保有する私募債(社債)についても相続の対象となります。この社債は、ほかに資産会社に負債がなければ上記算式の「負債の相続税評価額(時価)」と同額となり、結局、相続財産は下記の金額となると考えられます。(その他の財産は無視)

 

  • 「株式+配当」のケースでは、上場会社株式の時価
  • 社債+利子」のケースでは、上場会社株式の時価ー税効果分
    =資産管理会社の株価(=上場会社株式の時価ー負債(社債)の額ー税効果分)+個人保有の社債の金額。

 

 

詳細な計算方法は税理士に必ずご確認ください。理解のためにイメージで記載しています。

 

私募債利用での留意事項

なんておいしいんだ、と思われたかもしれません。ただ、留意しなければならないことがあります。主に考えうるのは3点。

 

  • 私募債の資金使途に節税目的以外の合理的な目的がないと、租税回避行為として後々税金を利息つきで追徴される。
  • 私募債の利子率が高すぎると、マーケットなどを勘案した適正な利率を超える部分は役員給与等で利子所得よりも高い税率で課税される。
  • 当事者の課税関係をそれぞれ短期・長期で有利に運ぶには、詳細なシミュレーションが必要となる。

 

この点、大塚さんのケースでは、どのように対処しているのかは具体的にはわかりませんが、節税目的のみでやってはいけません。それが1点目です。そしてもっとも重要な点です。(こちらの記事では、株式の分散を防ぐというのが理由と説明されています。真実がどうかはわかりませんが。)

2点目、3点目はそれぞれの課税状況などによっても有利不利はかわってきますし、税務リスクの所在もまた変わってきますということ。これは個別具体的にみていかないと本当に痛い思いをしますのでご留意ください。

いずれにしても税理士さんと相談のうえ慎重にご検討いただく必要があるということです。ご留意ください。

 

というふうに、大塚家具騒動はいろんな論点があり、本当に面白いですね(完全他人事)。親子喧嘩して~とか批判されてますけど、こんなにいろんな論点あったら常人なら病んでますね。「持てる者」の苦悩というのでしょうか。大変です、、、

 

繰り返しとなりますが、上記の説明につき、実際の実行にあたっては、必ず税理士にご確認ください。会社や個人の状況によって課税関係は異なります。また、以下の記載は、理解に資するため、税制上の正確な表現ではなく簡潔な表現で記載しています。本記事の内容は税務上のメリットを保証するものではありません。

 

あくまでも状況にもよりますし、個人的見解(予想)ですので、一般論としてこのようなことも考えられるという程度にご参考ください。 

 

 

それでは、また( -ω- )ノシ

tom