会計士のデザインノート

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平成27年度税制改正 株式併合の反対株主買取請求 ~キャッシュアウト実務への影響は?

 
今回は、平成27年度税制改正でしれっと改正されていた「株式併合の反対株主の買取請求」について、ご紹介します。
 
  • 株式併合の反対株主の買取請求で株式を売却した場合、みなし配当は生じなくなり、譲渡損益のみが生じることとなった。
 
という改正です。(官報P.234の左上あたり、「会社法182条の四第一項(反対株主の株式買取請求)」という部分がそれです。)
 
M&Aで使われるキャッシュアウト(スクイーズアウト)の実務でも注目されている箇所なので、ご紹介します。(実際に実務で使われるかどうかはさておき、、、)
 
(なお、本記事で記載する課税関係は一般的な取り扱いを示したものであるため、案件や会社の状況によって異なる結果となる可能性があります。実際の検討にあたっては、関与税理士等の専門家に必ずご確認いただく必要があることにご留意ください。)
 
 
 

株式併合とは

会社法を少しでも勉強したことがある人や株式投資をしている方はご存じかと思いますが、念のため。
 
株式併合とは、既存の数個の株式を1株に統合することにより、発行済み株式数を減らす方法です(会社法180条)。
 
第百八十条  株式会社は、株式の併合をすることができる。
 株式会社は、株式の併合をしようとするときは、その都度、株主総会の決議によって、次に掲げる事項を定めなければならない。
 併合の割合
 株式の併合がその効力を生ずる日
 株式会社が種類株式発行会社である場合には、併合する株式の種類
 取締役は、前項の株主総会において、株式の併合をすることを必要とする理由を説明しなければならない。
 
 

キャッシュアウト(スクイーズアウト)手法としての株式併合

上記定義にあるとおり、株式併合は、株式の単位を併合して切り下げることが可能となります。
M&Aにおいては、議決権の大多数をとってから、交渉しても売ってくれない少数株主を強制的に退出していただくというのが常套手段です。たとえば、
 
  • TOBをしかける→議決権の2/3超をとる→少数株主に現金を払って退出してもらう(=キャッシュアウト)
 
という流れは鉄板です。
 
具体例を考えてみましょう。
下表のように、株主がA,B2名いる会社を想定してみます。それぞれ10株、1株を保有しています。株主AがM&Aでは大多数をとった買い手となりましたが、Bは1株をAに売ってくれません。仕方がないので、株主Bに退出していただきたいと考えたとしましょう。こんなとき、株式併合によって、退出してもらうことが可能となります。
 
株主 併合前   併合後
株主A
M&A買い手)
10株 1株
株主B
(少数株主)
1株
0.1株
(に相当する端数)
株式併合によって10株を1株にしてみると、表の右側のようになります。併合後は、Aのみが株主となり、Bは0.1株分の金銭を受け取って株主でなくなります。(会社法上、1株未満の株式は認められず、端数に相当する部分は金銭と引き換えられます。)
 
このように、キャッシュアウト、少数株主に現金を払って退出してもらう方法は、いくつかあります。一番使われるのは、全部取得条項付種類株式というものです。仕組みは上記と似たような感じなのでここでは省略します。まあ要するに、少数株主の持ち分を端数にしてしまい、退出していただく方法です。
 
 

株式併合の課税関係(キャッシュアウトされた場合、反対して買取請求で売却する場合)

今回の税制改正のポイントは、株式併合の「株主総会決議に反対した株主の買取請求で株式を売却した場合」の課税関係です。
 
平成26年度に改正された会社法が平成27年5月に施行されます。この改正により、反対株主の救済手段として株式併合についても反対株主の買取請求制度が新設されました。その課税関係が今回平成27年度税制改正で明確にされましたので紹介します。(やっと本題!!!
 
<株式併合における課税関係まとめ>
株式併合における課税関係 改正前 改正後
キャッシュアウトされた株主
(端数部の金銭を受けた場合)
譲渡損益を認識 譲渡損益を認識(改正なし)
反対株主
(買取請求で売却した場合)
(平成26年度会社法改正により新設) 譲渡損益を認識
 
改正点の説明に入る前に、上表の例のように反対しなかった場合の課税関係はどうなるのかというと、当然、端数の売却になるため、株式譲渡損益が生じます。株式を換金、投資回収するわけですから、自然ですね。
 
一方、反対株主の買取請求によって株式を売却した場合(合併消滅法人株主を除く。)、みなし配当と譲渡損益が生じていました。会社が株主から買い取るということは、自己株式の取得に該当するだろうという趣旨です。株主への一部配当+払い戻しと考えられていたわけです。しかし、、、、冒頭でお伝えした通り、平成27年度税制改正では、みなし配当が生じないこととされました。純粋に株式譲渡損益のみが生じます。
 
 

今後、キャッシュアウト手法はどうなる?

キャッシュアウト手法のまとめ記事が、3月6の日号の商事法務No.2061の記事に掲載されていました。そこでは、ざっくりと対象会社(子会社)の議決権をどの程度持っているかによって、下記のように分けて検討していました。
 
  • 90%以上議決権あり → 特別支配株主の売渡請求
  • その他  → 全部取得条項付種類株式or株式併合を総合的に勘案して決定
 
「その他」の「総合的に勘案」する事項には、課税関係の差異も含まれます。課税関係の差異について、スクイーズアウトの代表的な手法である全部取得条項付種類株式と比較してみると、下表のようになります。
 
<キャッシュアウト手法による課税関係の比較>
  株式併合(改正後) 全部取得条項付種類株式
キャッシュアウトされた株主
(端数部の金銭を受けた場合)
譲渡損益を認識
譲渡損益を認識
反対株主
(買取請求で売却した場合)
譲渡損益を認識
みなし配当+譲渡損益を認識
法人株主はみなし配当が益金不算入の対象になる
 
全部取得条項付種類株式は、反対株主の株式買取請求で売却した場合、みなし配当が生じます。この点で、改正後の株式併合とは差異が生じています。
 
主が法人である場合には、みなし配当は益金不算入制度の適用がありますので、どの手法とるかによって課税関係がかわります。課税関係が変わることによりエコノミクスに差異が生じているため、反対投票のインセンティブが働く可能性があります。つまり、反対しない場合には、全額譲渡損益となりますが、反対すればみなし配当が生じ益金不算入(非課税)部分があるので課税関係で有利になる可能性があるのです。
資金化のタイミングなどを考慮しなければ、みなし配当の金額等によっては非常においしいケースもあるかもしれません。
 
一方、株式併合は、反対してもしなくても、いずれも端数部分については、譲渡損益が生じるのみとなりますので、ここに反対のインセンティブは生じない、と商事法務No.2061はとりあげています。
 
(本来、経済的実体が同一であれば、課税関係に差異はないわけで、インセンティブが生じてしまうのは、法が経済活動をゆがめているあかしでもあります。補助金等わざと歪ませていることも多々ありますが、この全部取得と株式併合はどうなのでしょうか。)
 
 
とはいえ、実務上は、従来から「全部取得条項付種類株式」がよく使われており、「株式併合」の出る幕はありませんでした。今後も、反対株主の課税関係が変更になったからといって、このトレンドが変わることはないように思います。(当然、90%以上取得している場合には、売渡請求が主流となるでしょうが)
特に上場会社が対象となるような場合では、「全部取得条項付種類株式」が主流のままとなるかと思います。
 
商事法務では、税務上の差異以外にも、法的安定性や新株予約権の処理などについて差異が紹介されていますので、ご興味のある方はぜひご一読ください。
 
(なお、上記課税関係は一般的な取り扱いを示したものであるため、案件や会社の状況によって異なる結果となる可能性があります。実際の検討にあたっては、関与税理士等の専門家に必ずご確認いただく必要があることにご留意ください。)
 
 
それでは、また。( -ω- )ノシ
tom
 
 
 株式買取請求は、会社やFAからするとできれば触れたくない論点、、、それを1冊にまとめたこちらは本当に救いの手です。笑
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