会計士のデザインノート

ヒトとカネの交差点

非流動性ディスカウントは合理的か② ~最高裁判決:非上場会社同士の合併における反対株主の価格決定申立て

 

こんにちわ、tomです。

 
↓前回の「非流動性ディスカウント」↓についての続きです。

tom-notebook.hatenablog.com

 

 

1.最高裁判決の理由は疑問が残る(個人的には)

「収益還元法に市場における取引価格との比較の要素が含まれない」としているが、本当にそうなのか?という点で、個人的には非常に疑問が残ります。(頭が悪いだけかもしれません)
 
たしかに、財産評価基本通達に則れば、通達に定められる類似業種比準方式では算式内に「×0.7」と非流動性ディスカウントを認める要素がある。一方で、純資産価額方式や今回の収益還元法に近い考え方である配当還元方式では「×0.7」というような非流動性ディスカウントを認める要素がない。
 
しかしながら、ファイナンス理論上、非流動性ディスカウントを認めるとする説においては、非流動性がリスクプレミアムとすると株価は下がるという考え方もある。つまり、非上場株式については、流動性が低いため投資家は売れないリスクに見合うリスクプレミアムを要求します。上場会社では要求しません。このことから、非上場株式の株価算定では、投資家の期待リターンである割引率は上昇し、収益還元法における「株価=利益/割引率」の分母が上昇するため株価は下落すると考えられています。この収益還元法などで使用する割引率は、どうしても類似会社の市場における取引価格とそれに基づくリターン水準を用いて相対的にリスクプレミアムの水準を決定し、算出します。この点、収益還元法でも割引率の算定にあたり市場での取引を参考にしており、「市場での取引との比較の要素が含まれない」という最高裁の意見は、少し形式的すぎる気がするのですがいかがでしょうか。
 
話を戻すと、下記の議論が判決文を見る限りではなされていないのですが、いいのでしょうか。
  • 類似業種比準方式を論拠に出していますが、財産評価基本通達に則った考え方をこの局面で使っていいのか?(同族内の取引という前提なのか、違う前提だとしたらなぜこの通達に則るのか?)
  • 財産評価基本通達に則ったとしても、例えば、配当還元方式の割引率10%に非流動性リスクプレミアムは乗っかっていないと考えるのか?収益還元法も同様に割引率に非流動性リスクプレミアムは乗っていないと考えるのか?
  • 財産評価基本通達に則らないならば、第二審までの結論は相当と認められないのか?
つまり、ファイナンス理論でいうところの、非流動性が高いことから投資家が要求するリスクプレミアム(非流動性ディスカウントの根拠)について、まったく記載がなく議論されていないようなのですがどうなのでしょうか。
裁判所による価格決定の局面では、あまりこういうことは気にしなくてもよいのか、とはいえ実務上は、非流動性リスクを割引率にどうおりこむか難しいところなので、そこは見ないようにするのが妥当ということなのか。
(なお、実務上、非流動性ディスカウントは「交渉では」カードとして使用することも多々あります。が、ファイナンス理論上、定量的に実証された信頼に足るソースがないため、非流動性ディスカウントを割引率に織り込むのは難しく、各算定方法による株価×(1-30%)という感じでざっくりディスカウントすることが多いかと思います。)
 
いずれにせよ、
  • 「非上場会社同士の合併における反対株主の価格決定申立て」という限定的な局面であること
  • 非上場会社のスクイーズアウトの価格には注意すること(同様の状況では、この判決が一つの基準にならざるを得ない)
  • 交渉時に、(上記局面でないにもかかわらず)交渉相手(売り手)がこの判決を引き合いに出してくる可能性があるので、事前に論破できるよう準備すること
というのがポイントとなりそうです。
 

2.買取請求をおこした反対株主は誰なのか

完全に個人的興味に基づく推測なのであしからず。趣味です。
 
可能性としては、以下の4つが考えられます。
 
a. 親族(現経営陣以外、仲のよろしくない親戚など)
b. 従業員
c. 取引先
d. 金融機関
 
d.はそもそも出資してる可能性自体が低いと思います。b.は訴訟費用や知識の観点、何より訴訟後に勤務を続ける場合には人間関係上むずかしいでしょう。そうするとaかcが可能性としてはありそうですが、判決文をみると反対株主は約10%弱の持株比率となっています。取引先で10%近く持つかなあ、と思うと、、、微妙!無くはない!けど、あまりなさそう!ということで、個人的にはaかなと思います。cの可能性ものこすとしても、合併したかったけど事前の調整をミスって、、、
反対株主「合併比率(株価)低すぎンゴ!反対するンゴ!買取請求ダンゴ!」
って感じになったんでしょう、、、
株価算定って奥が深いですね。事業承継案件では、やはり利害調整をめんどくさくならないようにやらなければなりませんね。
 
ちなみに、決定日の3月26日同日に、ファミマとの合弁解消がプレスリリースされてますが、これは偶然かと思います。(たぶん、、、)
 
 

3. 税務上の取り扱い

本判決と直接関係ないですが、備忘のため。
 
税務上は反対株主の買取請求に基づく金銭の交付は、合併の適格性には影響を与えません。反対株主の権利行使はコントロール不可でやむを得ないこと、これで非適格になるとすると少数株主の反対で合併とりやめが税務を理由に容易にできてしまうことからこれだけで非適格にはなりません。
 
また、株主の課税関係は通常の株式譲渡と同様、譲渡損益を認識しみなし配当は認識しません。なお、株主の譲渡損益は合併の日に認識するため、年や決算をまたいで価格決定した場合には要注意です。価格決定の前年の申告で概算価格で譲渡したものとして申告します。
 
 
それでは、また( -ω- )ノシ
tom