会計士のデザインノート

ヒトとカネの交差点

IFRS云々より会計士へのエールだと思った~金融庁「IFRS適用レポート」

 

 
こんにちわ。
 
先週の4月15日に、金融庁から「IFRS適用レポート」が公表されました。
 
今回はこちらの内容のご紹介と思うところを。
 
 

勢い止まらぬIFRS適用会社の増加

2015年2月末までにIFRS適用(予定含む)した会社69社のうち65社からの回答をもとに作成されています。日本企業のIFRS適用状況をまとめたものとしては最新のものとなります。気が付いたら3月末時点で70社を超えており、勢いがありますね。
おそらく、株式市場に勢いがありますので資金調達等に外国株主にも好感するような材料がほしいというのと、単純に景気が上向きなので導入コストを予算でとれること、などが原因と勝手に考えています。
 
 

本レポートの内容まとめ

P.14以降では、このように本レポート調査の結果がまとめられています。今後、IFRS適用を検討される場合には、参考するとよいと思います。
 
  • IFRS導入の最大のメリットとして、「経営管理への寄与(経営管理の高度化)」を挙げている企業が多いこと
  • IFRS導入のコストは、各企業の規模・導入目的によってまちまちであり、多様性があること
  • 会計人材の裾野の拡大
  • IFRSへの移行プロセスにあたり、他社との連携や他社事例の分析を活用すること
    (以上、IFRS適用レポートより)
とくに本編よりも資料編に各社のコメントがたくさん掲載されていますので、リアルな声の一部をかいまみることができます。
 
 

導入コストと移行期間

なかなか外部公表資料では明らかにならないので、とても参考になりました。
 
基本的に移行期間が長引けば長引くほど、導入コストはかさむという傾向にあるようです。理由としては、外部アドバイザーやシステム業者へのコストは、単価×作業時間であるためだと考えられます。
 
導入コストは、「1億円以上5億円未満」が最も多く、売上規模が大きいとそれ以上となるようです。「5000万円未満」が13社あったのは意外でした。意外とかからなくても済むんだなと。ただ、これは、売上規模が小さい、つまり事業の数が少なくシステム改修の必要性が少ないような会社のように思います。事業が多く、回収するシステムが多いとそれだけでコストにつながりますから。
 
意外だったのが、「IFRS適用はでかい会社のみ!」という先入観があったせいか、「連結は表計算ソフトにより作成しているため、システムにコストはかかっていない」というようなコメントがあった点です。たしかに、私もベンチャーで非上場の会社や上場した会社をみていますが、大体連結の作成はエクセル。それで済むから変にシステムいれるよりコストは低い。この点は、IFRS導入目的に沿って、コストをかけるべきか、その目的に対するベネフィットはどの程度かを検討することが重要となりますね。
 
 

会計上の個別基準・論点への対応

仕事柄M&A関連が気になるのですが、あまり触れられていませんでした、、、
 
のれんについて言及されたコメント公表されていましたが、減損テストの話であり、償却うんぬんはでてきませんでした。
 
とはいえ、1点気になったのが、非上場会社株式の公正価値測定の話。日本基準ではかなり細かく指針が定められているところ、IFRSではどうやるのか?というところ。本レポートのコメントをみるとP.57で、監査法人と相談しながら実務上の最速をとりまとめるなど、あらかじめルール化すれば、乗り切れるようです。
 
この点、投資事業有限責任組合の形式でCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)を作っている場合には、有責法(投資事業有限責任組合契約に関する法律)ベースとIFRSベースでのダブルスタンダードとなります。もちろん、従来から、金商法ベースと有責法ベースのダブルスタンダードとなっていたため、ランニングコストはあまり変わらないでしょうが、イニシャルの検討に留意すべきでしょう。
 
固定資産の減価償却も税法とIFRSダブルスタンダードとなっているため、似たような話、とも言えますが、非上場株式の評価は「見積もり」の部分が大きいので、あまり抽象的すぎたマニュアルとなるとあとで監査法人と必ずもめるでしょう。ですので、入り口からしっかり検討してルールを具体的かつ明確に定める必要があります。(いくら、具体的に定めても非上場会社の評価、特にベンチャー株の評価はもめにもめるという話もあがってきそうですが、、)
 
 

心にとどめておきたい監査法人へのクレーム(本題)

なお、上記3点目に関連して、本レポートのP.61以降は監査法人へのクレーム集となっております。苦笑。クレームをまとめると、、、
 
  • 日本の監査法人には、IFRSの実務経験が豊富な人材がいないため、形式的かつ議論に時間がかかる。
  • 日本の監査法人には、ビジネスの実態を把握している会計士がごく少数であり、マニュアル偏重型が多い。
  • 日本の監査法人のマニュアルに、IFRSの実務経験が織り込まれておらず形式的すぎる。
 
つまり、個人・法人ともに経験が少なく、ビジネス実態の把握もできていないため、マニュアルに頼ろうとするが、マニュアルも実務経験が織り込まれていないため形式的すぎる対応となる。といったところでしょうか。
 
ビジネス実態を把握するところは、自分でビジネスをしたことのないサラリーマン会計士では限界があるのかもしれません。これは、私が入社した8年前も全く同じことがいわれておりますが、改善していないようです。それどころか、むしろマニュアル偏重で実態を把握しようとしない悪い方向へどんどん進んで行っている、ということを法人内でも法人外でも耳にします。
 
マニュアルに頼ろうとすることから、日本の監査法人のマニュアルで対応できない部分は、当然海外のメンバーファーム(たとえば、新日本監査法人→E&Y)に確認することとなりますが、その対応が早くて2週間、かかる場合だと2か月、というコメントもあり、何も言いわけできない状況です。正直、海外ファームとの連携は弱いと思います。私の法人も海外との連携を統括する部署の人数は相当少ないです。こんなんでいいのか?と思います。結局、統括部署を通すか、駐在経験のある個人づてに確認したりするのですが、ネットワークがまだまだ弱いですね。正直、欧米なんかは日本からサービス利用される側でしかないので、ネットワーキングによるコストが大きいという判断で見向きもしてないのかもしれません。
 
 
かくいう私も、IFRS導入の経験はほとんどありませんので自分を棚にあげて、ということなのですが、、、(仕事柄、企業結合、連結、持分法、JVあたりはそれなりにおさえているつもりです。)
 
 
本レポートを読んであらためて、姿勢が正されましたし、真剣に勉強したいと思いました。IFRSではなく、IFRS適用の実務の研究を独自に進めたいとおもいます。 
 
クレームをポジティブに「エール」ととらえて、日々精進してまいります!
 
 
それでは、また。( -ω- )ノシ
tom
 
 
おまけ:お世話になっているIFRS
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