会計士のデザインノート

ヒトとカネの交差点

東芝の不正会計から「標準化」の議論へと ~ロジックのジャンプは気にしない(いや、しろ)

 

こんにちわ。
 
今週は家族が体調を崩し、ばったばたでした。
ネタはドンドンたまる一方で、自分の思考の言語化が全く進んでいません。
 
今回は久しぶりに(!?)本業周辺のトピックにします。
 
東芝が不正会計をやらかしました。
工事進行基準の「見積り」が甘かったようです。
 
 
東芝IRページから、関連するプレスリリースを時系列でのっけておきます。
 
4/3 特別調査委員会の設置に関するお知らせ」
5/8 「業績予想の修正に関するお知らせ」
第三者委員会設置のお知らせ」
5/13 「現時点で判明している過年度修正額見込み及び第三者委員会設置に関する補足説明」
5/15 「第三者委員会の委員の選任等に関するお知らせ」
5/22 「第三者委員会の調査対象に関するお知らせ」
 
 
 

工事進行基準とは

工事の進行程度に応じて売上を計上していく方法です。
通常、製品やサービスの提供がおわって検収があったときに売上があがる、というのが会計上の原則です(実現の2要件は、製品サービスの提供、対価の受領が完了すること)。
工事進行基準では、最初に見積もった計画に対する工事進捗度に応じて売上を計上していきます。
 
たとえば、大きな発電所のプロジェクト、当初の計画で総費用(工事原価総額)は100億円かかります。2年間の工事をして、完了引渡が無事すめば300億円の売上(工事収益総額)がもらえます。このとき、2年間かかるので、2年後に売上計上するのか?ということになります。
原則どおり(工事完成基準、検収基準)で会計処理すると、1年目はプロジェクトは動いているのに売上計上(売上原価も)されません。一方、工事進行基準では、1年目は総費用の半分50億円がかかったから、売上も300億の半分で150億計上していいよ、ということになります。
(工事進捗度の見積もりが原価比例法の場合です)
 
 

会計上の見積りは各社バラバラ?

工事進行基準では、この「総費用(工事原価総額)」の見積りが肝となります。あくまでも、プロジェクト開始時の計画数値(に対する工事進捗度)に基づいて売上計上するからです。
 
上記の例でいえば、本当は100億円総額でかかるのに、50億円とだましだましプロジェクトが開始されたらどうでしょうか?1年目に売上の100%である300億円が計上されてしまいます。要するに、このケースでは、売上(利益)計上の前倒しとなるわけです。
 
計画は将来のことですので、計画次第でどうにでもなってしまう、ということになります。
この点は、このようなことがおきないよう、工事進行基準を適用する場合には、計算で使用する各要素(工事収益総額、工事原価総額、工事進捗度)の見積の精度が高いことが要求されます。詳しい内容は新日本さんのページにでも譲ります。(ググればでてくるので)
 
見積りの精度が高ければよい、という話ですが、その精度の基準は各社の裁量にゆだねられています。もちろん監査法人のチェック(監査)はあります。見積りの性質上、グレーゾーンも大きくあり、そもそも「計画どおりにびったり進む」なんてことは事業環境上、相当成熟している市場じゃないと難しいです。ビジネスを計画どおり進める、というのは本当に難しいことですから。
 
 

会計士に見積りのチェック(監査)ができるのか?

正直かなーり難しいです。
新日本さんがどのような監査を行ったのかはまだわかりませんが、「会計上の見積り」の監査は、本当に難しいです。
 
なぜなら、「見積り」自体が「将来どうなるかを予測する」ということだからです。それが予測できればサラリーマンやめて、何かビジネスやった方がいいんじゃないかってことになりますよね、、、それこそ投資家になれって話です。
 
また、実際にビジネスの「現場に立ち会っているわけではない」ということも困難さに拍車をかけます。後追い」で監査チェックするしかないためです。取締役会への出席はほとんどしないでしょうし、ましてやそれ以下の日常的な業務に立ち会うこともまあありません。決算期末の棚卸や数少ない現場立会もあるでしょうが、東芝のようなグローバルカンパニーだと、全部みるわけにはいきませんね。
 
こういったことは「見積もり」だけに限らず、監査の限界といってもいいでしょう。
 
 

監査をどうすればいいか?

そもそも監査だけで発見しなきゃいけない、というのはおかしな発想です。
  • 不正を防止する
  • 不正を発見する
とでは、不正を防止する方に力をいれるべきです。
もちろん、不正を発見する力がなければ、防止する意識が届かないので、不正を発見する力を会計士がつけることは必要です。
 
では、不正を発見できるようにどう監査すればよいか?
 
細かいテクニックは晒しません。テクニック以前の素地という意味で必要なことを考えてみました。
その意味では、IFRS適用レポートでもあがっていた、「ビジネスを理解していない会計士が多い」というのがつながるところかなと思います。
「ビジネスを理解する」には下記が必要となるのではないでしょうか。
 
  • 実際に経験がある、経験してみる(ビジネス自体をやっていた・みるor同様の監査をやっていた・みる)
  • 他の事例を知っている(実際の監査現場or文献・開示例など)
  • ビジネスのファンダメンタルズを特定しておく(円高か円安か市況がどうという外部環境、組織のルールなどの内部環境)
  • 以上を「標準化」する。
 
「標準化」はJICPAが必死にやっていますね。会計不祥事がおこるたびに、「実務対応報告」とか「Q&A]や「通達」やらを発行してくれます。これってすごく標準化です。まったく関与していない人にも「ここは気を付けろ、こうやれ」って指示してくれるのです。とはいえ、全体に伝わるように非常に抽象化されていたりするので、個別にあてはめていくには、自分の努力が必要です。これをやろうということです。
 
それでも、監査の限界、は性質的に、完全にはなくすことはできないのですがね、、、
 
「悲しいけど、これ(が)監査なのよね。」
 
スレッガー・ロウのつぶやきが聞こえましたよ。いま。
 
 

経験だけでなく、「標準化」を

なににでもいえることですが、「経験を標準化しておく」ことは非常に重要です。
「標準化」することの効能は大きく2つ。(「標準化」も含め)
 
  • 再現性を高め、効率をあげる。
  • 再現できない環境に適応するためのとっかかりを明らかにできる。
 
今回は長くなってきたので、これについては、また次回。なんだか、まったく関係ないほうに飛んできちゃったなあ、、、というところですが、おつきあいください。
東芝については、第三者委員会の報告書を待ちましょう。上記工事進行基準だけでなく、いろいろ芋づる式に出てきているようですし、、、
 
 
それでは、今日も一日おもしろく。
( -ω- )b