会計士のデザインノート

ヒトとカネの交差点

そこまで標準化されていないノウハウのありがたさ <外資系コンサルの知的生産術>

 

おはようございます
 
最近、英語の勉強ばかりしており、読書がおざなりになりつつあります。
とはいえ、新書やらKindleなどで軽めの本は、少しづつ読んでいるので、紹介していきたいと思います。(ネタがたまる一方で、ブログ更新が一番のボトルネックというのは内緒です)
 
今回、ご紹介するのはこちらの本。
 
外資系コンサルの知的生産術 プロだけが知る「99の心得」 (光文社新書) 外資系コンサルの知的生産術 プロだけが知る「99の心得」 (光文社新書)
山口 周

光文社 2015-01-15
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コンサル本は見飽きてるけど、この本をとった理由

FAS含むコンサル業務をはじめてから、4年になります。コンサルといえば、ロジカルシンキングなどの思考術やプレゼン術についての本がたくさん出版されています。
 
よく本屋に行く私からすると、もうそんなの見飽きた、って感じなのですが、パラ見してすぐさま購入。
 
なぜ買ったのか?
 
それは、「そこまで標準化されていないアドバイスが、現場にいるかのような雰囲気で、箇条書きになっている」からです。
 
ポイントは3つ。
 
  • そこまで標準化されていないアドバイス
  • 現場にいるかのような雰囲気
  • 箇条書き
 
以下、考えていきます。
 
 

そこまで標準化されていないアドバイス

いわゆるロジカルシンキングやプレゼン術って、もう「型」が決まっています。「フレームワーク」ともいいます。これらは、知識や技術が「標準化」され視覚化されたものです。
 
本書ではほとんどフレームワークはでてきません。MECEやらロジックツリーやら、エピソードの中ででてくることはあっても具体的にそのフレームワークそのものを説明する記述はありません。
 
では、何が書かれているのか?というと、「コンサルの職場で上司や先輩から受けるようなアドバイス」です。こういう教科書には書いていないけど、実務をこなしていくとわかってくる、標準化されていないアドバイスがとてもいいのです。そういう行間を読めるようなアドバイス、がいいなと思います。
 
 

現場にいるような雰囲気

上記のアドバイスが書かれているので、言わずもがなですが、特に私の場合は過去の体験としてこれが感じられます。
これは、実際に私がコンサルの現場に短いながらも4年間いるからだと思います。そうでない人はなんとなくわかっても、腑に落ちない部分もあるかもしれません。しかし、ホワイトカラーと呼ばれるオフィスワーカーであれば、部分部分で同じことを思うことでしょう。ああ、こういうこといわれたことあったな、とか、これいかせるなってことはすごく多いです。
 
 

箇条書き

チェックリストのようにすぐ使えます。これは便利。目次をみるだけで、内容は過去の体験を引っ張ってくれます。まさに脳内インデックスの書籍化。
 
また、箇条書きの個数についてもよいです。
タイトルにあるとおり、「99」項目あるのですが、きりがいい。100じゃないところがまたきりがいい。100個目は、この99項目を守ること、なのではと思うほど。それくらい私の過去の経験で経験があったことが99個にまとめられていました。
 
これ以上まとめると抽象度が高すぎるし、これ以上具体的にしすぎると数が多くなりすぎる。そんな数、99。
 
 
 
ということで、本書は、コンサル業界の方はもとより、専門家の方、企画や新規事業を考えるような仕事をされている方にはもってこいかな、と思います。
 
私も本書は机に置いておき、パラ見しようとおもいます。
 
  • プロジェクトの開始時にぱらっとめくってみる
  • プロジェクトでスタックしたときにぱらっとめくってみる
  • プロジェクトが佳境に至ったときにぱらっとめくってみる
  • プロジェクト終了直後にぱらっとめくってみる
 
 
それでは。今日も一日おもしろく。
( -ω- )b
 
 
 
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中小企業における人材ソーシングの話 〜中途採用やクラウドソーシングもあるけれど


おはようございます。

更新頻度が下がったのは、家族全員体調不良というよくある非常につらい状態であったため。ネタは溜まる一方です、、、

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さて、今回は「中小企業における人材」の話。

最近、中小企業経営者や個人事業主の方、つまり、オーナー経営者の方と話す機会を多くいただいています。(以下、オーナー経営者はいわゆる中小企業のオーナー経営者をイメージしてください)


人材に対するオーナー経営者の悩みと思い
そこで、かなりの頻度で、話にあがるのが「人材の不足」についてです。頻度もさることながら、一番熱がこもるのもこの「人材の不足」について。

  • 中小企業だから、そこまでカネに余裕がない、だから優秀な人材を高給で雇うことができない
  • カネがあっても諸々の理由で、優秀な人材は大手を選び、うちにはこない(雇えない)

というパターンが多いです。
その一方で、雇っている「優秀ではない」とオーナーが考えている従業員に対してこのような思いを抱いている方が多いことも事実です。

  • 高卒だろうがなんだろうが、給料に見合った働きをしてほしい(いまはできていないから)
  • 給料に見合った働きをすることで、従業員に成長してもらいたい(もらわないと困る)
  • それによって従業員の雇用が確保でき、従業員の家庭を経済的に安定させてあげたい(食えるようになれ)

実際はもっと荒々しい表現ですが、このような思いを吐露してくださるオーナーの方は非常に多いのです。
ファミリービジネスとはまさに、といった感じで、映画「ゴッドファーザー」をみているかのような、そんな湿っぽいですが熱く、人間らしく見てくれているので、本当にその従業員たちは羨ましいなと思ったりします。(大企業ではほとんどがそうではありませんから)


人材のソーシングをどう考えるか
そんな思いのあるオーナー経営者の方々。そこで、会社の視点から、人材の獲得(ソーシング)方法について考えてみたいと思います。
人材のソーシングは、大きく、2つの方法に分けられます。

  • 入口でみる方法(即戦力を採用する方法)
  • 入ってからしっかりみる方法(会社で育成する方法)

それぞれメリットデメリットはありますし、各社によって適合する状況が異なるかとおもいます。即戦力の調達、という意味では、最近は、中途採用だけでなく、クラウドソーシングによって代替するという方法もありますね。


オーナー経営者はどう考えているか
オーナー経営者の陥っている状況からすると、おそらく

  • 即戦力は採用できない
  • かといって育成もできない

ということかと思います。



どうやって人材を調達したらいいか?
個人的には、「育成してください」というのが答えです。「育成する金も時間的余裕もない!」「全然だめ、無理だよ。元々の素地が悪いから」などと諦めてはいけません。

個人的なスキルもさながらですが、組織の育成、組織の成長という意味では、これが最も投資効率がいいと考えています。

中小企業は組織基盤(仕組み)が脆弱です。大企業のように中身(人)を変えてどうにかなるわけではありません。もちろん、大企業も一人当たりだけ変えてもだめですが。中小企業もきっかけとして中途の即戦力が起爆財となるケースはあります。が。ほとんど一過性で終わります。なぜなら、オーナーの色と組織の色と中途の人の色をうまく融合できないから。色を融合させるには、プロパーを育成するのが最も速いです。中途採用の人材のアンラーニングコストは多くの場合高くつきます。


どうやって人材育成するか?
従業員の成長は、「社内プロジェクト」などの「新しい仕事」を任せ、それをやり遂げたとき、というのが経験上多い気がします。むしろ失敗したときの方が成長するとかしないとか。色んな自己啓発本や人材開発の本でも多く言われている気がします。

この点、いかに「新しい仕事」を任せられるかがポイントになりますね。



以上、最近、中小企業経営者の方々とのディスカッションから、考えをまとめてみました。
まあ、言うは易く行うは難し、、、

行い易くするために、この「中小企業における人材育成」のための仕組みづくりみたいなのを考え始めています。



それでは。今日も一日おもしろく。
( -ω- )b


「見える化」「言語化」「標準化」 〜training and habituation

 

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今回は、先日の東芝の不正会計の話から派生して。思いっきり内容は飛んでしまいますが、、、「標準化」について。

 

tom-notebook.hatenablog.com

 
東芝は出てきません(注意)。
 
業務改善系業務ではよくよく使う「見える化」「言語化」「標準化」を自分なりに整理しておきます。また、いま考えている将来の展望についても備忘メモ。
 
 

「標準化」の効能

標準化とは、
 
  • 主体が異なっても(誰でも)
  • 時期が異なっても(いつでも)
 
できるようにすることです。
そして、標準化の効果(メリット)は、
 
  • 再現性を高めること。
  • 再現できない環境においても要素を
 
これにより、規模の経済や学習効果がえられるようになるし、環境が変化しても対応できるもの、と理解しています。あれ?環境変化が激しい場合には標準化ってダメなんじゃないの?と考えられる方もいるかもしれません。その通り、それは標準化のデメリットですね。規模が大きくなればなるほど、方向を変えるのは困難に高コストになります。当然、メリットもデメリットもある。では標準化していないのと標準化しているのどっちがいいの?ということになります。
 
私自身は、こう考えています。
 
  • 「言語化までは必ずしておく、標準化は自分の中で最低限しておき、組織等への導入はその規模・コストによる」
 
なぜなら、言語化することで経営課題がみつかるし、標準化して自分の「型」を身に着けると、自分のワークは標準化のメリットが大きく働くためです。とはいえ、自分であっても組織であっても、その標準化の導入に
はコストが通常かかるためです。あとはコストベネフィットの問題だと思っています。
 
 

「標準化」のための「言語化」

標準化するためには、言語化しなければなりません。
マニュアルや取扱説明書をイメージしてください。基本、誰にでもわかるように標準化した手順がそこには「言語で」記載してあるはずです(多くの取扱説明書は誰にでも「すんなり」わかるわけではないけど、、、)。なんとなく、から、(こういう理由でこうなるから)こうすればいい、というふうに言葉にする。そうすると、だれでもいつでもできるようになるのですね。(当然、その他の制約によってはうまくいかない場合がある。)
 
言語化のとき注意しているのは、下記のポイントです。
  • 体言止めしない。
  • 1文を短くする。
  • S+V+O,Cなど、主語述語目的語を明確にする。
  • 必ず数値を使う。
 
実はこれは、学生時代にやった国語や英語の文法と同じです。もちろん学生時代苦手でも、続けることで容易に改善ができますので、レッツトライ。また、数値がない場合も無理やりいれてみると、案外発見があるものです。さいしょは無理やりいれて観るといいと思います。
 
 

「言語化」のための「見える化

言語化するには見える化しなくてはなりません。
それぞれの定義によって、言語化は見える化に含まれるともいえるし、同義ともいえます。しかし、私はこの2つをこのようにわけています。
 
  • 見える化:単なるデータ、情報を(単語、数値、イメージなどにより)記録(記憶)していく。
  • 言語化:見える化された情報を、文章に落とし込み整理する(情報の整理、意見や仮説が入り込む)
 
言語化するための初期動作、として見える化をとらえています。「観察」といってもいいかもしれません。「観察」したものを記録していく、というのは、非常に有効です。
 
 
 

何よりも「習慣」にすることが重要

上記は、意識しても中々できるようになりません。私もまだまだようやくできるようになり始めたところ。頭ではわかっていても、いざ行動に落とそうとすると全然できないんですよね。
 
行動を起こすには、何よりもまず「習慣」にすることが重要です。かのアリストテレスもこんなことをおっしゃっております。
 

Excellence is an art won by training and habituation. We do not act rightly because we have virtue or excellence, but we rather have those because we have acted rightly. 

 
そのためには、どうするか?
 
仕組みをつくってしまいます。
 
仕組みづくりも標準化であり、、、これを一節にすると、、、「標準化するための行動を習慣化するための仕組み化」というなんとも同語反復が否めない漢字になりますが気にしない、、、
 
実際に、私が標準化のためにやっている習慣は、たとえば、下記のようなことです
 
  • <標準化>あらゆる記録のためのフォーマット(枠組み)を作っておく。もしくは本などからパクる。
  • <言語化>フォーマットにコンテンツをいれる。たとえばブログをアップする、DailyReviewをつける、など。
  • 見える化Evernoteを用意し「ブログネタ」をアップできるようにしておく。そのほかToodledoやGoogleカレンダーなどのクラウドなどを利用し、行動記録を行う。
 
特にルーティンというか、もうこれ決まっているな、やることがパターン化しているな、というものは「標準化しやすい」もしくは「標準化がすでにされているのであとは仕組みとして見えるようにすればいいだけ」という状態です。
 
とはいえ、なかなか標準化はむずかしい。人の経験や体験を標準化するってことって本当に難しいです。私自身、いろいろな経験を積んできていますが、この専門的な知識を標準化し誰にでもわかる、誰にでもできる、ようにするにはかなりの労力が必要です。
 
今少し考えているのは、こういった「経験を標準化・パッケージ化」できないか、というもの。そんなものあるよ、と。教科書や書籍はパッケージそのものですね。そうなのですが、パッケージからそれぞれの状況に応じてより適応させることができないのか、という点も考えています。まだまだアイデアベースであり、言語化がうまくできません。前に述べた言葉でいえば、、会社の中で「アダプティブラーニング」を共有していくようなネットワークや仕組み作りができないか、と悶々とする日々です。
 
 
これについては少し整理できたら、また書いていこうと思います。
 
 
それでは。今日も一日おもしろく。
( -ω- )b
 
 

非流動性ディスカウントは合理的か③ ~旬刊・経理情報(2015/6/10号)の記事と私の主張を比べてみた

 

 

 
こんにちわ。
 
3月31日に、こんな記事を書きました。

tom-notebook.hatenablog.com

 
それでも飽き足らず、4月2日にもこんな記事も書きました。

tom-notebook.hatenablog.com

 

過去の2つの記事では、非上場会社の合併の反対株主の買い取り請求時の株価に、非流動性ディスカウントを考慮するか否かという最高裁の裁決事例について、考えるところを述べてみました。
 
この点、今秋発売の旬刊経理情報No.1415(2015/6/10号)において、「非流動性ディスカウントの否認事例とその射程」という記事が掲載されておりました。(特集はIFRSなのでそちらも気になり、会計士としてはマストバイ!なのでは)
 
アップデートもかねて、上記の私の主張と、法律の専門家たる弁護士による記事との差異をチェックしておきましょう。
 
 

前回の私の主張

拙ブログの過去の記事では、うだうだと理論的な面を書いています。それは諸説あるものとして、実務的なポイントは下記をあげております。
 
  • 「非上場会社同士の合併における反対株主の価格決定申立て」という限定的な局面であること
  • 非上場会社のスクイーズアウトの価格には注意すること(同様の状況では、この判決が一つの基準にならざるを得ない)
  • 交渉時に、(上記局面でないにもかかわらず)交渉相手(売り手)がこの判決を引き合いに出してくる可能性があるので、事前に論破できるよう準備すること
 
 

経理情報の記事の概要

では、今回紹介する経理情報の記事ではどう申されているか。
執筆されたTMIの滝弁護士の意見を一部引用させていただき、まとめますと下記の通りかと思います。
 
  • 「基本的に、非上場会社に対する株式買取請求がされた」場面であてはまるべきものであること
  • M&A実務全体にただちに波及するものとまではいえないであろうこと
  • 上記場面以外においては、「各制度の立法趣旨をも踏まえ」慎重に検討、判断すべきこと
 

主張を比較してみた

滝弁護士の主張と私の主張とで異なるのは、滝弁護士の主張の3点目と私の主張の2点目であり、これについては、滝弁護士の主張の通りかと思います。私は、「非上場会社のスクイーズアウト」という抽象的、大きなくくりで考えておりますが、やはり法律のプロは、しっかりと個別条文の趣旨をおっておりました。すみません、私が未熟でした。
 
とはいえ、滝先生におかれましても「本決定の射程が及ぶと解する余地は十分にある」と注書きですごく小さくフォローしており、私もなんとかぎりぎりセーフではないでしょうか、汗。まあ、とにかく「類似案件には注意しろ」ということでご容赦いただければと思います。
 
詳細な主張の内容は、旬刊経理情報No.1415(2015/6/10号)にてご確認ください。
 
 
それでは。今日も一日おもしろく。
( -ω- )b
 
 
 

 

 

3つの「リ」 〜「利」「理」「人」

こんばんわ。

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久しぶりの再会でこんなことを話しました。同じ法人の先輩ですが、認識が同じでした。よかった。



類は友を呼ぶ。

たいして共有する時間がなかったとしても、なんとなくいいなぁ、好きだなぁと思っていると、10年ぶりだったとしてもふとしたことでつながっていく。


他方、


苦楽を共にした。

すごい密に時間を共有していると、情も理も生まれる。共感が生まれる。その密度は時間の経過でなかなか薄れない。それが結局、長く継続していく。



どちらもあるんです。
どちらも仕事に、人生に大きな意味を持っています。

それは、目先の「利」や「理」をこえて、究極的に「人」に通ずるのです。


「利」「理」に縛られず、自分も含め「人」を大切にしたい、とあらためて思いました。


「利」がなければ食っていけない。
「理」がなければ何も解決できない。
でも
「人」がなければ誰も幸福になれない。


すべて必要なのです。
「人」が生きるためには。


非常に抽象的ですが、大事なことなので、きろくしておきます。


それでは。今日も明日も面白く。
願わくば生命つきても面白く。


節税策に報告義務!? ~企業、税理士等の対応と政府の思惑

 

 
こんにちわ。
 
昨日、朝刊を読んでいて驚きました。
 

www.nikkei.com

 
「これは、、、(ドキッ)」
 
と思われた経営者や経理の方、税理士の方、節税コンサルの方、節税商品を売り物にしている方は少なくないでしょう。そして、
 
「ところで、節税策って具体的にはなに?どこまでが対象になるの?」
 
と思われたかもしれません。
 
実際、どういった取引が報告義務となるのか、それによる実務の影響はどうなるのかを私なりに考えてみました(以下、個人的な見解、推測に過ぎませんので、実際の法改正の内容を保証するものではありません。念のため。)
 
 

対象となる「節税策」とは

まだまだ先の話で具体的には未定です。
記事によれば「1年間で億円単位の損失を意図的に作り出すような節税策が報告の対象になりそうだ」とのことです。
 
会社規模にもよりますが、中小企業では年間億単位の損失がでるような節税対策を行ってる会社はそこまで多くはないでしょうね。中小企業で一億円以上の損失がでそうな取引は、下記くらいでしょうか。(経常的な取引は除くと)
 
  • 組織再編やM&Aを使った節税
  • 保険や航空機リースなど節税商品取引
  • 役員退職に関係する取引
 
あくまでも、純粋に一億円以上の損失がでそうな取引をあげてみているだけです。これらは、今回の制度の報告対象となるかはわかりません。念のため。
 
実際、「億円単位の損失を意図的に」ということですけど、意図的にって話になると、通常の購買取引とかも含まれるのでしょうか。これはないと思いますが、「意図的に」の意味は法人税法132条の2の包括否認規定「不当に」に近いレベル感なのでしょうか?そうだとするとそれを報告することって、現状の自己申告と変わらないような気がするのは私だけでしょうか、、、
 
なお、他国の事例も記事では紹介されています。米国、英国では金額基準を定めて、「~以上の損失がでる取引」等に報告義務を課しているようです。
 
 

会社・税理士等の事務負担は増える

会社にとっても税理士等にとっても、当然、報告のための情報を集め、報告書類とまとめることとなりますので、人手がかかります。特に大企業ともなれば、特に大変です。
 
まず取引前の検討段階から「節税策にあたるかどうか」の明確かつ具体的な判断しなければならなくなります。判断のための判断基準を、検討プロセスの整備が必要となります。この検討プロセスの整備だけで人手が必要となり、爆死します。いい落とし所になるかは、今後の政府の詰めに期待するしかありません。
 
 

税理士等にとって追徴リスクが上がるだけか

この点、税理士等にとっては、一見、税務署等からの指摘が増え追徴のリスクが高まる、という可能性があります。なぜなら、節税策というグレーな部分も多い行動が報告され、それをもとに税務署が税務調査の対象の参考とするためです。実際にはどういうプロセスになるかはこちら側からはわかりませんが、、、
 
ただ、それだけではなく、税理士等にとっては新たなビジネスとなる可能性もあります。「節税策報告書の作成業務」や上記の「検討プロセスの整備助言」などが考えられます。また、「セカンドオピニオン」業務はいまでさえ比較的使われているようですが、これも増えるでしょう。報告の際に節税にあたるかどうかの判断をセカンドオピニオンとして仰ぐのです。小規模な取引ではあまりビジネスになる可能性は低いですが、大企業などは取引量・額ともに多いことがあるので、必要となってくる部分はあるでしょう。
 
しかしながら、税理士やコンサルにとって新たなビジネスになるということは、「節税策の報告をすることが節税」という同語反復になりかねないということでもあります。ということは、そもそもこの報告制度は本当に必要かということを考えてしまいます。イメージとしては、絆創膏(既存の税法)の上に絆創膏(今回の報告制度)を貼るようなものだと感じます。
 
 

徴収する側(国税や税務署等)の目的は何か

税務調査の対象をどう決めているか不明ですが、マイナンバー制度とあいまって、徴収網を張り巡らせたい、ということだと勝手に思ってます。徴収できるのに徴収していない状態をなくし、確実に徴収していく。
税務署の顧客名簿というか債権管理表や与信管理みたいなイメージでしょうか?というよりは、マーケティングデータかなと思います。潜在的な債権はどこに眠っているか?それは節税策を多くやっている納税者であろうという前提であれば、たしかにこの報告制度は有用かもしれません。
 
しかしながら、申告さえしない人もいるというのに、前述のとおり事務負担が増えるであろうことからすると、適切に報告してくれるのか?という気もします。
また、税務署等徴税する側では、マンパワーの不足もあるでしょうから、やはり、少ないマンパワーで大きく徴収できるような会社を狙うのが経済的には合理的です(課税の公平性もあるので、こればかりではいけないと思いますが)。
 
ということは、内部統制や会社の仕組みがしっかりしている上場会社や大企業に対するけん制なのかもしれません。世界的にも、「大企業の租税回避は許すまじ!」という流れとこれは整合するでしょう。
 
ですので、この世界的な金余り状態と相まって
 
  • 「(金余り状態の)大企業の租税回避を抑制し、あわよくば追徴を狙っていく」
 
というのが目的の制度なのかなと勝手に考えています。
 
 

まとめ

以上からすると
 
  • 大企業は対応が必要で税務署に狙われるリスクは上がる(かも)
  • 中小企業はそこまで不安にならずともよい(積極的な節税策を除く)
 
ということだと勝手に考えています。
制度が本決まりではないですし、詳細な詰めもこれからということで、これからの動向に注目が集まりますね。
(以上の内容は、個人的な見解、推測に過ぎませんので、実際の法改正の内容を保証するものではありません。念のため。)
 
 
それでは。今日も一日おもしろく。
( -ω- )b
 
 

 

東芝の不正会計から「標準化」の議論へと ~ロジックのジャンプは気にしない(いや、しろ)

 

こんにちわ。
 
今週は家族が体調を崩し、ばったばたでした。
ネタはドンドンたまる一方で、自分の思考の言語化が全く進んでいません。
 
今回は久しぶりに(!?)本業周辺のトピックにします。
 
東芝が不正会計をやらかしました。
工事進行基準の「見積り」が甘かったようです。
 
 
東芝IRページから、関連するプレスリリースを時系列でのっけておきます。
 
4/3 特別調査委員会の設置に関するお知らせ」
5/8 「業績予想の修正に関するお知らせ」
第三者委員会設置のお知らせ」
5/13 「現時点で判明している過年度修正額見込み及び第三者委員会設置に関する補足説明」
5/15 「第三者委員会の委員の選任等に関するお知らせ」
5/22 「第三者委員会の調査対象に関するお知らせ」
 
 
 

工事進行基準とは

工事の進行程度に応じて売上を計上していく方法です。
通常、製品やサービスの提供がおわって検収があったときに売上があがる、というのが会計上の原則です(実現の2要件は、製品サービスの提供、対価の受領が完了すること)。
工事進行基準では、最初に見積もった計画に対する工事進捗度に応じて売上を計上していきます。
 
たとえば、大きな発電所のプロジェクト、当初の計画で総費用(工事原価総額)は100億円かかります。2年間の工事をして、完了引渡が無事すめば300億円の売上(工事収益総額)がもらえます。このとき、2年間かかるので、2年後に売上計上するのか?ということになります。
原則どおり(工事完成基準、検収基準)で会計処理すると、1年目はプロジェクトは動いているのに売上計上(売上原価も)されません。一方、工事進行基準では、1年目は総費用の半分50億円がかかったから、売上も300億の半分で150億計上していいよ、ということになります。
(工事進捗度の見積もりが原価比例法の場合です)
 
 

会計上の見積りは各社バラバラ?

工事進行基準では、この「総費用(工事原価総額)」の見積りが肝となります。あくまでも、プロジェクト開始時の計画数値(に対する工事進捗度)に基づいて売上計上するからです。
 
上記の例でいえば、本当は100億円総額でかかるのに、50億円とだましだましプロジェクトが開始されたらどうでしょうか?1年目に売上の100%である300億円が計上されてしまいます。要するに、このケースでは、売上(利益)計上の前倒しとなるわけです。
 
計画は将来のことですので、計画次第でどうにでもなってしまう、ということになります。
この点は、このようなことがおきないよう、工事進行基準を適用する場合には、計算で使用する各要素(工事収益総額、工事原価総額、工事進捗度)の見積の精度が高いことが要求されます。詳しい内容は新日本さんのページにでも譲ります。(ググればでてくるので)
 
見積りの精度が高ければよい、という話ですが、その精度の基準は各社の裁量にゆだねられています。もちろん監査法人のチェック(監査)はあります。見積りの性質上、グレーゾーンも大きくあり、そもそも「計画どおりにびったり進む」なんてことは事業環境上、相当成熟している市場じゃないと難しいです。ビジネスを計画どおり進める、というのは本当に難しいことですから。
 
 

会計士に見積りのチェック(監査)ができるのか?

正直かなーり難しいです。
新日本さんがどのような監査を行ったのかはまだわかりませんが、「会計上の見積り」の監査は、本当に難しいです。
 
なぜなら、「見積り」自体が「将来どうなるかを予測する」ということだからです。それが予測できればサラリーマンやめて、何かビジネスやった方がいいんじゃないかってことになりますよね、、、それこそ投資家になれって話です。
 
また、実際にビジネスの「現場に立ち会っているわけではない」ということも困難さに拍車をかけます。後追い」で監査チェックするしかないためです。取締役会への出席はほとんどしないでしょうし、ましてやそれ以下の日常的な業務に立ち会うこともまあありません。決算期末の棚卸や数少ない現場立会もあるでしょうが、東芝のようなグローバルカンパニーだと、全部みるわけにはいきませんね。
 
こういったことは「見積もり」だけに限らず、監査の限界といってもいいでしょう。
 
 

監査をどうすればいいか?

そもそも監査だけで発見しなきゃいけない、というのはおかしな発想です。
  • 不正を防止する
  • 不正を発見する
とでは、不正を防止する方に力をいれるべきです。
もちろん、不正を発見する力がなければ、防止する意識が届かないので、不正を発見する力を会計士がつけることは必要です。
 
では、不正を発見できるようにどう監査すればよいか?
 
細かいテクニックは晒しません。テクニック以前の素地という意味で必要なことを考えてみました。
その意味では、IFRS適用レポートでもあがっていた、「ビジネスを理解していない会計士が多い」というのがつながるところかなと思います。
「ビジネスを理解する」には下記が必要となるのではないでしょうか。
 
  • 実際に経験がある、経験してみる(ビジネス自体をやっていた・みるor同様の監査をやっていた・みる)
  • 他の事例を知っている(実際の監査現場or文献・開示例など)
  • ビジネスのファンダメンタルズを特定しておく(円高か円安か市況がどうという外部環境、組織のルールなどの内部環境)
  • 以上を「標準化」する。
 
「標準化」はJICPAが必死にやっていますね。会計不祥事がおこるたびに、「実務対応報告」とか「Q&A]や「通達」やらを発行してくれます。これってすごく標準化です。まったく関与していない人にも「ここは気を付けろ、こうやれ」って指示してくれるのです。とはいえ、全体に伝わるように非常に抽象化されていたりするので、個別にあてはめていくには、自分の努力が必要です。これをやろうということです。
 
それでも、監査の限界、は性質的に、完全にはなくすことはできないのですがね、、、
 
「悲しいけど、これ(が)監査なのよね。」
 
スレッガー・ロウのつぶやきが聞こえましたよ。いま。
 
 

経験だけでなく、「標準化」を

なににでもいえることですが、「経験を標準化しておく」ことは非常に重要です。
「標準化」することの効能は大きく2つ。(「標準化」も含め)
 
  • 再現性を高め、効率をあげる。
  • 再現できない環境に適応するためのとっかかりを明らかにできる。
 
今回は長くなってきたので、これについては、また次回。なんだか、まったく関係ないほうに飛んできちゃったなあ、、、というところですが、おつきあいください。
東芝については、第三者委員会の報告書を待ちましょう。上記工事進行基準だけでなく、いろいろ芋づる式に出てきているようですし、、、
 
 
それでは、今日も一日おもしろく。
( -ω- )b